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『逝きし世の面影』(渡辺京二)

[ 2010/12/02 ]

幕末・明治初期に日本を訪れた外国人達の膨大な証言から、「今は失われてしまった江戸・徳川文明」を捉えなおし、日本の前近代のありようを浮かび上がらせた本。

1998年にハードカバーの分厚い体裁(600ページ弱、4200円)で出版されて以来、九州の無名出版社、無名著者の著作であるにも関わらず、様々な知識人、書評家から絶賛された。
呉智英、西部邁、筑紫哲也、櫻井よし子、松本健一、松岡正剛、藤原正彦などなど、立場も思想も様々な著名人がこの本を紹介しているし、ネットで書評を検索してみると、様々なブログで取り上げられており、ほぼ絶賛一色。
アマゾンのレビューもこの手の生硬な本にしてはすごい勢いだったりする。
目立った批判は小谷野敦くらいだろうか(主に資料の恣意的な取り上げ方と、江戸時代の性風俗の認識に関して)。
版元が倒産したので長らく絶版になっていたが、平凡社ライブラリーから廉価版が出たので、それを買った。
絶賛、とまではいかないけれど、読んで損はなかったかなあ、とは思った。

『日本視覚文化研究会』という、海外の日本評を紹介するサイト専門のニュースサイトがあったり、ニコニコ動画でも「海外の反応シリーズ」というタグのもと、様々な動画がつくられたりしているし、テレビでも『世界を変える100人の日本人』やら『ここがヘンだよ日本人』やらと、「外国人の目を通した日本」というテーマはわりと普遍的な興味関心を引く。
島国であり、土着の人間観と西欧的な人間観の両立を、世界史上もっとも早く意識した日本人には、特に顕著な習性なのかもしれない。
本書はその決定版ともいうべきもので、外国人によって次々と「発見」される先祖達の生活の有り様と、それを目にしたときの外国人たちの反応に関心をそそらされる。

人々の表情、身体的特徴、生活のあり方、女性のあり方、幸福のあり方、管理された自然の美しさ、生き生きとした子供たち、人間と動物との関わり方…。そういったものが、驚きと、好意の目をもって紹介されている。
それは、今日の日本人である我々とも共有しうる目だ。
先祖である日本人に胸懐の念を抱く一方、先祖と同時代人である外国人の驚きにも近しいものを感じてしまうのは、たしかに、我々が「江戸文明」を捨ててきたからなのだろう。

江戸時代の「文明」を見るのは興味深いし、外国人達が日本人を見ることで、自分たちの文明を捉え直そうとする心の動きも面白い。
まさに温故知新なのだが、そうは言っても、ヨーロッパ近代が獲得してしまった普遍性というのはあまりにも強くて、日本や中国、インド、イスラム圏などの文明もすべて、ヨーロッパ近代の枠組みに吸収され、それらの地域に住んでいた人々も、ヨーロッパ近代の枠組みの中で幸福を追求することに慣れようとしている。
異文化との接触によって、人間存在のあり方を考える、というやり方は文化人類学なのだけれども、その方法論自体がいささかマンネリ化してきたように思う。
そう思っているのはまだ少数の人間だけなのかもしれないけれども、日本のアニメやマンガを見て驚いている外国人の様子を伝えるブログや動画は沢山あるが、もはやその驚きや反応は想像の範囲内に収まってしまっていて、その驚きがこちらの驚きに伝播する、ということが少なくなってしまった。
彼らが驚いたからといって、彼らのすべてが驚くわけでもないし、彼らの生活様式が大きく変わることもない。

「ヨーロッパ近代」がジャポニズムやオリエンタリズムと出会ったときの驚き、あるいはビートルズがインド音楽と出会ったときや、クラプトンがレゲエと出会ったときの驚きと言ってもいいだろう。
そういった出会いが化学反応を起こしても、結局はヨーロッパ近代に吸収され、ポップミュージックに吸収される、という一連のルーティンから、人類はどのようにして逃れられるのだろうか。
日本近代、オリエンタリズム近代というテーゼが成立するにはどのような歴史的経緯が必要なのだろうか。

この本が目指した物、というのは高い水準で達成しているとは思うし、それはそれで読み応えがあった。
ただ、そういうディスカバー・ジャパン的なものはそろそろ打ち止めでもいいような気がする。
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