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『やる夫が光武帝になるようです』(1 ◆r.lduuWrXE)

[ 2011/09/11 ]
やる夫が光武帝になるようです

2ちゃんねるにはアスキーアートを使って物語を書き綴っていく、という文化があって、そこで生まれた傑作歴史小説。
後漢王朝を開いた光武帝については中国史上屈指の名君である、という話を以前から様々な本やネット上の文書で読んできて興味を持っていたのだけれども、人間の想像力には限界があって、「面白い読み物」にでも出会わない限りは、なかなかその内実の詳細を理解できるようにはなれない。
なので、長いこと光武帝を主人公にした小説を探していたのだが、現在入手が容易な作品の中では塚本靑史が書いた『光武帝』くらいしかなくて、それは評判が散々なものだったので手が伸びなかった。
で、出会ったのがこの作品なのだが、まさか「やる夫」スレでここまで出来のいい「小説」が出現するとは思わなかった。

『項羽と劉邦』や『覇王別姫』などで有名な劉邦、『三国志』で有名な劉備に比較して、後漢王朝を開いた光武帝(劉秀)の事績を知る人は少ない。

以下、少しだけ彼の事績をとりあげてみよう。
同じ王朝創始者であっても、劉邦と異なり光武帝は国家統一後も功臣の粛清を行わなかった。
妻に恵まれ、皇后陰麗華も中国史上屈指の賢夫人と言われ、呂后のような血なまぐさい政争は、光武帝の死後もあまり起こっていない。
光武帝の功臣は「雲台二十八将」と呼ばれ、後の徳川二十八神将や武田二十四将などに影響を与える功臣顕彰の範となるほど優秀な人材に恵まれていた。
40万の軍勢を8千の軍勢で破るなどの軍事的実績や、奴隷解放を実施し「人権宣言」を先取りしたかのような言葉「天地之性、人為貴(この世界において、人であれば尊い)」に基づいた政策も秀逸。

また、我々が中国史という時、殆どの人が思い浮かべるのは『三国志』だと思うのだけれども、『三国志』の時代があれほど面白いのは戦争に様々な計略、陣立てが用いられ、知恵比べ的な要素が加味されているからだという評価もある。
そのような知性が『三国志』時代の群雄の多くに備わっていたのは光武帝の後漢王朝が教育政策をしっかりやっていたからだというし、『三国志』全編を通して、光武帝は群雄たちから理想の君主として崇められている。

統一後は名君として君臨すれど、決して奢ることもなく冗談が飛ばし、家臣や民衆から罵倒されても笑って受け流し、晩年は功臣達と栄華を分かち合った。


というわけで知れば知る程、知りたくなるのが光武帝。
やっと出てきた小説が「やる夫」スレというのもびっくりだけれども、期待通り、かなり面白かった。

発表場所が2ちゃんねるであり、その利用者に受けるような筆致で描かれている。
過剰な下ネタやマニアックなオタクネタが散りばめられており、2ちゃんねるに抵抗のある人にはなかなか受け入れられないフォーマットなのだが、資料に用いられている文献は入手困難な学術書、史書も多数含まれており、時代考証もかなりしっかりしている。
64章にわたる大河物語を1年半かけて、なんの金にもならないのにスレッドに投下し続けた作者の営為には畏敬の念を覚えずにいられないが、まっとうな評価を受けるのは難しいのだろうな。
でも、そういったオタク的な素養のある人にとっては、大抵の歴史小説を読むよりも物語に入り込みやすい手法だと思う。
鄧禹、陰麗華、馬武、馮異、劉嘉、来歙、劉縯、呉漢、更始帝などの登場人物をハルヒ、長門、のまねこ、泉こなた、セイバー、やらない夫、DIO、海馬、のび太などのキャラクターたちに演じさせることによって、感情移入がとてもしやすくなる。
もちろん、歪んだイメージではあるのだが、それでも情報の定着という意味では有効な手段だろう。
これは新しい表現形態だと思う。
私はこの「小説」で幾度も声をあげて笑ったし、感心したし、知的好奇心を刺激されたし、そして感動することができた。
このような形態がどれくらい一般化できるかわからないけど、願わくはさらなる傑作が生まれることを期待したい。



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