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『時間ループ物語論』(浅羽通明)

[ 2013/02/18 ]
時間ループ物語論
時間ループ物語論

大学の講義をまとめた本ということで、2000年に出た『野望としての教養』と同じような体裁だけど、今作では時間ループ物語論、というテーマに絞った本。
時間がループする物語を読み解く過程から、現代社会をどのようにして生きるか、という話に持って行っている。

ゲーム作品への言及・批評はほとんどないものの、(この世代から上はほんとにエロゲをやらない。岡田斗司夫や竹熊健太郎なんかも全然やっていないようだし、宮台真司や宮崎哲弥もプレイしているという話を聞いたことがない)古今東西あらゆるループ作品を取り上げていて、その読み込みの深さ、類型分析などには舌を巻いたし、たしかに彼が批判するところの最近の若手批評家筋の言説などとは一線を画す教養の深さと識見の高さを堪能することが出来た。

厳密な意味での時間ループ物語よりも以前の物語、ループものの前史にあたる、『ファウスト』や『浦島太郎』、夏目漱石『それから』などの話から最近の『ひぐらしのなく頃に』まで、実に様々な類型の物語が俎上に挙げられているのだが、その読み込み方はモラトリアム人間、ニート、オタクの理想郷、逃げ場としての時間ループ、という読み方に焦点が絞られていたように思う。
要するにオタク相手の言説に終始していて、その外側の人間にまで届くような言説ではなかったように思う。
副題に『成長しない時代を生きる』とあるけれども、その「成長しない時代」をどうにかしようという論議には発展せず、その中で幸福に生きるための知恵を時間ループ物語から読み解こう、というところに落ち着いていて、ちょっと情けない話だなあ、という印象がずっとつきまとっていた。
そうやって時代に対してネガティブなレッテルを貼って、それでも身近な幸福の中でボチボチやっていこう、という思考って、本書の中でも批判されていた宮台真司の「終わりなき日常を生きろ』とどこがどう違うというのだろうか。
ご本人があきらめるのはいいんだけど、そのあきらめを促すような言説には首肯しかねるものがある。
別に革命を志向せよ、とまでは思わないんだけど、その「成長しない時代」がどのようにしたらいい時代になるのか、という具体的な処方箋を書こうという方向にはいかないのかね。

ループ物語にしたって、別にそういう「成長しない時代」という読み方だけではなくて、それこそ近代以前からそのような志向の話はあったわけで、人間の根源的な欲求として、「やり直したい」「この幸せな時がいつまでも続けばいいのに」「死にたくない」というのはあるだろう。
古今東西に視野を広げているわりには、あまりにも現代の最大公約数的な価値観に立脚しすぎた論が目立ったように思う。
それこそ先のことなんかわかりゃしないんだから、現代が行き詰まった世の中なら、それをどうにかしようと試みるのが知識人の役割じゃないかね。
そういう意味では『野望としての教養』にあったような、話が展開していくにつれて次々と読み手のこちらも視界が開けていくような興奮には至らなくて残念。
未読だけど、前著の『昭和三十年代主義』も「成長しない」というキーワードが副題になっていたので、浅羽通明の思考はそちらのほうにシフトしてしまったのだろうけど、うーん、なんか違うよなあ。
ただまあ、ブックガイドとしては良いと思うし、読んでみたい本や映画はいくらかストックできたのでまあ、良しとしようか。
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